ニュース 速報 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
現在位置は
です

本文です

こころ塾『和文化サラダ』 梶田真章さん 詳報

悟りへ至る修行期間

「彼岸―仏さまを知る」…法然院貫主 梶田真章さん 50

 京都の伝統文化や四季の行事、暮らしの智恵などを毎月各界の第一線で活躍する研究者や宗教関係者らが語る「和文化サラダ」(NPO法人和の学校など主催、読売新聞大阪本社など後援)。3月は、法然院(左京区)の貫主の梶田真章さんが「彼岸―仏さまを知る」をテーマに語り、約30人が聞き入った。(3月2日、左京区の法然院で)


梶田真章 法然院第31代貫主。左京区の浄土宗大本山金戒光明寺の塔頭・常光院の生まれ。芸術家の発表の場として寺を開放するなど、現代における寺の可能性を追求する一方、環境問題にも取り組み、僧侶として、一市民としての社会的役割を果たそうと活動している。

 以前、日本人の宗教観を問うたアンケートで、7、8割の人が無宗教だと答えたのを見たことがあります。しかし、日本にはお寺と神社が数多くあります。多くの人が彼岸や盆、神社のお祭りなどの宗教行事に参加しています。だから無宗教かというとそうでもない。

 この状態をうまく説明できるのが先祖教です。死んだ人がどうすれば安らげるかというと、生きている人間が供養し、拝んだり花を供えたりして魂を鎮め、霊を慰める。神や仏が何とかするのではなく「私」がなにかしてあげる。それが日本人の伝統的な宗教心だったのです。生きている人間がどうしてあげるかが大事だった訳です。

 お盆やお正月は、その行事の一つです。先祖教では、死んだ人はふるさと近くにとどまり、生きている人間を見守っていると信じてきたのです。だから迎え火や送り火をする。海の近くだと精霊流しになります。仏教では死んだ人は仏の世界にいるため矛盾があるといわれますが、これは先祖教の行事だからなのです。

 お彼岸についてですが、これは仏教か、先祖教からみるかで全然違うものになります。簡単にいうと、先祖教ではお彼岸はお墓参りをする時ですが、仏教では修行をする期間なのです。

 彼岸とは、サンスクリットでパーラミター、波羅密多のことを指します。此岸(しがん)は仏教では娑婆。苦しみが多く、忍耐すべき世界が此岸、娑婆で、この世は耐え忍ぶ場所のため、彼岸に至りたいというのがパーラミターという思想なのです。

 だから、悟りの世界に至るために実践修行をしようというのが波羅密です。この代表が般若波羅密。これには、完全な智恵とは私が出来る時に出来ることを出来るようにするという意味が込められています。

 特定の対象に心を向け、なにかをしたいと思うのが「愛」で、出来ることを出来るようにするのが仏教で言う「慈悲」なのです。こだわりを捨て、1年間に2週間だけでも、菩薩(ぼさつ)の精神で、悟りへの道を少しでも進みませんか、という期間が仏教の彼岸なのです。

 一方、先祖教からみれば、亡くなった人をしのび、供養する期間だと考えられ、墓参りが盛んになっています。仏教的に考えれば、死んだ人はすでに仏の世界にいるので、生きている人が心配をしてあげなくても大丈夫ということになります。この二つの考え方が結びつき、故人を思うことで、「私も彼岸に行きたいなあ」と感じてもらう期間がお彼岸なのでしょう。

 先祖教は室町時代以降急速に根を張り、江戸時代に定着します。戦国時代、手柄をあげた武将は菩提寺を建てました。寺は、各宗派の教えを広めるためでなく葬式と供養をするために建てられたのです。だから先祖教という宗教が健在だった高度経済成長期までは日本のお寺はそれをしていればよかった。

 しかし、高度経済成長に伴い家族の住む場所はバラバラになって、ふるさとが不明確になり、先祖教が信じにくくなりました。このため、仏教とはなんなのか、この30〜40年間、各宗派の教えに親しみたいなあという人たちが増えていますが、法事や葬式でそれに応え切れていないのが日本のお寺の現状。お寺は、これからどう応じていくかが問われているのでしょう。


会場から

写真

 今回は、梶田さんのお話を聞いた後、参加者は本堂に移動し、経本を手に読経に挑戦した。読み上げたのはお経の中でも一番短いとされる般若心経。参加者の大半は初体験で、戸惑いながらも、梶田さんの声について文字を目で追いながら一文字一文字を丁寧に読み上げた=写真。

 この後、お彼岸の時期の和菓子「ぼたもち」を食べながら、「すべては縁」との仏の教えについて話を弾ませた。最後に梶田さんが「またご縁がありましたら」と締めくくると大きな拍手が贈られた。

 大阪市中央区の富田孝一さん(65)は「彼岸や命日に仏壇やお墓に手を合わしていますが、それが仏教と先祖教それぞれに意味があったとは驚きでした。これから彼岸などの迎え方が変わりそうです」と話していた。


次回は4月1日 桜守・佐野藤右衛門さん

 第7回「和文化サラダ」は、4月1日午後2時から、下京区のCOCON烏丸3階のshin―biで。桜守の佐野藤右衛門さんが「花―日本人と桜―」をテーマに話す。問い合わせはshin―bi(075・352・0844)。

2007年03月27日  読売新聞)

現在位置は
です