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エッセー・冬 「楪(ゆずりは)」


 お健やかに新年をお迎えのことと思います。

 お正月といえば、門松、注連飾り、鏡餅など様々な飾り物をします。
 それらにはいろいろな植物が使われそれぞれに意味があり、いにしえの人々のこころを思うことができます。

 その中のひとつに「楪(ゆずりは)」があります。

 古い葉は、新しい葉の成長を見届けた後、一斉に枯れ落ち、新しい葉にその場を譲る…。
 世代交代、一家繁栄に通じるめでいた木としてお正月の飾りに使われています。

こどもたちよ、
これはゆずりはの木です。
このゆずりはは
新しい葉ができると
入れ代わって古い葉が落ちてしまうのです。

こんなに厚い葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉ができると無造作に落ちる、
新しい葉にいのちを譲って―。

こどもたちよ、
おまえたちは何をほしがらないでも
すべてのものがおまえたちに譲られるのです。
太陽のまわるかぎり
譲られるものは絶えません。

輝ける大都会も
そっくりおまえたちが譲り受けるものです、
読みきれないほどの書物も。

みんなおまえたちの手に受け取るのです、
幸福なるこどもたちよ、
おまえたちの手はまだ小さいけれど―。

世のおとうさんおかあさんたちは
何一つ持っていかない。
みんなおまえたちに譲っていくために、
いのちあるものよいもの美しいものを
一生懸命に造っています。

今おまえたちは気がつかないけれど
ひとりでに命は伸びる。
鳥のように歌い花のように笑っている間に
気がついてきます。

そしたらこどもたちよ、
もう一度ゆずりはの木の下に立って
ゆずりはを見る時がくるでしょう。

河井酔茗『ゆずりは』(花鎮抄より)

 教科書に載っていたこの詩を覚えておられる方も多いのではないでしょうか。
 年を重ねると、この詩の言葉の重みが理解できるようになりました。

 新旧の葉の交代は、常緑樹では珍しくないのですが、この木は特に目立つため「ゆずりは」という名前になったようです。他に「親子草(おやこぐさ)」「交譲葉(ゆずりは)」などとも呼ばれ、また万葉集では、葉の主脈が太く弓の弦(つる)に似ているところから「弓弦葉(ゆづるは)」という名で詠まれています。

 昔は神仏に供物をのせるのに用いたとか。葉は長楕円形で厚く、また若い枝と葉の柄の部分が紅色です。

ゆづり葉や口にふくみて筆始    宝井其角
ゆづり葉や歯朶や都は山くさし    正岡子規
楪を箸置きにして祝ひ膳    中村苑子
しづかなる冬木のなかのゆづり葉のにほふ厚葉に紅のかなしき    斎藤茂吉

 新しい年にあたりこの「ゆずりは」を今一度思います。
 譲られる立場から譲っていく立場になっていく私たち。
 私たちに出来ることは本当に小さいけれど、その積み重ねこそが大切なのではないでしょうか。

 新しい年を迎えられたことに感謝して、また今年も丁寧に歩いていきましょう。

(理)
2007年01月04日  読売新聞)

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