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Kochi University of Technology

学長

本物見分ける能力育成…教員評価で学生伸ばす
高知工科大学 岡村甫さん


鉄とコンクリート、木とレンガ。素材の調和した建物は、外国の研究者から絶賛されたという。大学祭の舞台となった芝生広場、国際学会のレセプションにも使われた食堂。すべて、学長のお気に入りの場所だ

 開学から10年。高知工科大学は「人が育つ環境づくり」を目指し、全科目選択制、1年生の研究室配属など、独特の教育で全国の注視を浴びる。背景には「古い大学への危機感と新たな大学を創(つく)り出す夢」。東大野球部で最多の17勝を挙げた伝説のエースとしても知られる岡村甫(はじめ)学長に、大学改革の“投球術”を指南してもらった。

(聞き手は本多宏・科学部長)

 ――東京への一極集中が進み、多くの地方大学が危機感を抱いています。

 今の時代、情報は世界中から集まるので、研究活動を行う上では地方でも東京でも大差ありません。ただ、地理的には不利なため、人を呼んで交流する装置を用意しています。施設の充実したキャンパスでは国内や国際的な学会が盛んに開かれます。人がいて、場所がある。東京だけが拠点ではないのです。

 ――2004年、文部科学省の「21世紀COEプログラム」で世界水準の研究教育拠点に選ばれました。

 工学と社会科学を融合し、21世紀の社会資本のあり方を研究する「社会マネジメント・システム学」拠点です。1999年に技術と経営力を兼ね備えた人材を育てる「起業家コース」を大学院に設置するなど、他大学に先駆けて様々な分野と工学を融合する研究教育に取り組んできました。

 ――その実績が来年4月の「マネジメント学部」新設につながりましたね。

 従来の経営系学部より、はるかに広く深い領域を融合させ、工学的センスを身につけた文系学生を育成します。学生は経営学や会計学などを中心に、興味のある工学系の基礎科目も履修し、工学部で取り入れてきた1年生からの少人数セミナーも実施します。逆に、工学部生もマネジメント学部の科目を履修できるので、経営的感覚を身につけてほしいと思います。

 ――教育や研究に対する他大学からの評価は高いものの、中四国以外の受験生が減っています。

 開学当初は全国から学生が集まりましたが、少子化や工学部離れもあり、地方大学は全国的に同じ状況でしょう。教育研究の中身で大学を選ぶ高校生や高校の先生が全国には少ないようで、残念な気がします。中身をさらに改善する努力も続けています。高知工科大学をもっと全国の高校生に知ってほしいですね。

 ――中身の改善とは。

 世界中の大学が学生を大事にする方向へ急激に変わっている。学生の伸び方が全く違うからです。私の考えた授業評価による教員評価システムでは、全科目について「教員は達成目標を明確に示しましたか」「あなたは目的を達成して十分な力がついたと思いますか」など6項目を学生が5段階で点数化、全教員と学生に公開する。給与や昇格にも反映させています。

 ――「科目や関連分野が好きになりましたか」という項目はユニークですね。

 すごく大事です。好き嫌いは先生によって左右される。好きになると、興味を持って勉強することができます。いかに好きにさせるかは人生に大きな影響を与えます。自分の分野を好きになってもらいたいと教員も思っているんですよ。学生が好きになれなかったら、教員はどこが悪いのかを考えるでしょう。

 ――日本の大学教員は教育を軽視する傾向があると言われています。

 研究が主で教育が従の教員、研究を教育の道具に使う教員がいていい。大学は多様性を許す場所でなくてはならない。研究能力の高い人が、学生が育つ喜びを知れば講義も研究もよくなると思います。研究だけやるなら、研究所に勤めればいいんです。

 ――全国で唯一、「必修科目」を設けず、全科目選択制を採用しています。

 必修科目は卒業に必要なので、教員の評価も甘くなってしまう。選択制だと教員は容赦なく落としますから、学生たちもまじめに取り組みます。自分で判断して選ぶ方が、学生にも教員にも厳しいのです。

 ――従来の大学教育は学生の個性を必ずしも尊重してきませんでした。

 多くの大学が、短所を少なくして規格品のような学生を送り出そうとします。私は中学時代から速い球が投げられず、下手投げから遅い球だけで打ち取る工夫を重ねたことが大学まで生きました。特徴を生かし、能力を伸ばすのが教育力です。短所があっても長所でカバーできるし、短所は長所に変えられます。

 ――どんな学生を育てたいですか。

 得意なものがある人、創造性のある人。さらに大切なのは、本物を見分ける感性を持つことです。受験勉強は、何も考えず、頭に詰め込み、感性や創造力を失わせる過程です。受験ばかりでなかった高知工科大の学生は感性を失わず、気力がある。彼らの可能性を確信しています。

おかむら・はじめ
 高知市出身。東京大工学部土木工学科卒。同学部教授、学部長などを歴任。1999年に高知工科大教授・副学長となり、2001年4月から現職。来年3月末で退任予定。専門はコンクリート工学。69歳。

聞き終えて赤門エース 対話重視

 「最強の赤門エース」と紹介される岡村学長。野球の話題を振るタイミングを計っていたら「平均点の選手ばかり集めても強くならないですね」と、教育研究には多様な人の組み合わせが大切という例えにまず一球。学生の力を伸ばす優秀な教員の引き合いに中日の落合監督。六大学時代のベストピッチ“伸びる球”が次々に飛んできた。

 フットワークもさすがに軽い。学生と先生が自由に話せるコモンスペース、学生との距離を縮めるガラス張りの教授室、実験室と教室、倉庫が線上に並び、使い勝手に配慮した教育研究棟。ほぼ全域を短時間で案内してもらった。

 「野球か研究。どちらかを選ぼうとは?」。愚問を承知で聞くと、「長嶋(茂雄)の体力があればプロに行く。自分を生かせますから。でも限界は知ってます。研究なんて、はるかに楽」。そうですか……。

(本多)
2007年12月20日  読売新聞)
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