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挑戦

今後は介護福祉士の資格も取りたい

 今回は、介護職員として活躍されている涌井武一さんにお話を伺いました。
 涌井さんが現在働いておられる特別養護老人ホーム「淡路ふくろうの郷」は、聴覚障害者に配慮した全国でも数少ない施設の一つです。一般の老人ホームでは、設備が整っていない、手話のできる職員がいないなどの問題から、入所者同士のコミュニケーションに入っていけずに孤立しがちな聴覚障害者に、「安心して入所できる施設を」という目的で建設され、今年の4月1日にオープンしました。
 介護職員として働くことになったきっかけや、仕事の内容、施設のことなどについてお話を伺いました。

写真:涌井さん

涌井武一(わくいたけかず)さん

 長野県出身。3歳のときに聞こえなくなった。長野県長野ろう学校高等部卒業。一般企業に勤めた後、ホームヘルパー2級の資格を取得。現在は、今年4月、兵庫県の洲本市(淡路島)に開所した特別養護老人ホーム「淡路ふくろうの郷」で介護職員として活躍中。28歳。


―――介護職員として働くようになったのはいつからでしょうか。また、きっかけは。

 約2年前に、ヘルパー2級の資格を取得してからです。「淡路ふくろうの郷」には、今年4月の開所に合わせて来ました。その前は、長野県の老人ホームで1年半ほど働いていました。

 きっかけは、リストラで会社を退職して、次の就職先がなかなか見つからないでいた時、母が入院したことでした。

 特に大きな病気だったわけではなく今はもうすっかり元気ですが、将来のことを考えた時に、介護の必要性を感じてヘルパーの講習を受けたのです。

―――講習は、どのように受けていたのですか。手話通訳やノートテイクもあったのでしょうか。

 2級の講習は、特に通訳はつけていなかったので、一番前の席に座って、講師の口の形を読み取りながら頑張りました。

 今年5月には1級を取得したのですが、講習に手話通訳をつけてほしいとお願いしました。最初は、通訳者の派遣費用の問題で認められなかったのですが、その後、学校も私自身も市役所に何度もお願いをして、3回目の講習から通訳をつけてもらうことができました。でも、1日8時間ずっと通訳を見ていないといけないので、とても疲れました。

 グループで話し合いながらする時などは、自分の言いたいことをなかなか言えなかったり、通訳者に介護知識がなくてうまく伝わらず、周りについていくのが難しいと思うこともありました。

―――実習はどうでしたか。

 実習には通訳者を連れていくことは認められませんでした。通訳者が第3者であることや、通訳者を通すのは入所者にとっても、教える側にとってもやりにくいと言われました。職員や入所者とのコミュニケーションが一番大変だったけれど、何度も聞き直すなどして頑張りました。

―――ところで、「淡路ふくろうの郷」で働きたいと思ったのはどうしてですか。

 聴覚障害者に配慮のある施設ということで、入所者とのコミュニケーションもスムーズに取れると思ったし、立場は違うけれど、同じ聞こえない者同士、入所者とお互い助け合っていけたらと思ったからです。

―――採用が決まったときの気持ちは。

 県外(長野県)から応募したので、県内(兵庫県)の人のほうが有利だと思っていたし、正直、決まるとは思っていなかったです。だから、決まったときは嬉しかったです。

―――長野県と兵庫県の違いはどうですか。

 食べ物の味の濃さ、薄さや、気温なども全く違うので、最初は戸惑いましたが、4か月過ぎて、ぼちぼち慣れてきました。

―――現在の仕事の内容を教えて下さい。

 7月まではユニットリーダーを務めていました。1つのユニットに10人いる入所者一人一人の状況を把握し、入所者の長期目標や、やりたいことなどを考え、ケアプランを作成してケアマネージャーに渡したり、他の職員をまとめることなどが主な役割です。現在は、これから始まるショートステイの立ち上げの準備に関わっています。

 他にも細かい仕事はたくさんありますが、入所者の1日のスケジュールに沿っておおまかにみていくと次のような流れで仕事をしています。

5:00〜 7:30 入所者を起こす
7:30〜 8:30 食事の準備や、一人で食べられない入所者の食事を手伝う
8:30〜 9:00 職員のみの朝礼(夜勤の報告などを行う)
9:00〜 9:30 集会(朝の会)を行う作業場への入所者の誘導
9:30〜10:00 集会(その日の連絡。入浴の当番などを確認したりする)
10:00〜11:30 入所者が作業場に集まって、紙すきをしたり貼り絵をしたり、それぞれ好きなことをするので、それを見たり手伝ったりする
11:30〜12:30 昼食の準備や、食事の手伝い
(13:30〜14:00) お風呂の当番の入所者の誘導、入浴介助
12:30〜17:00 入所者の自由時間(作業をする入所者の手伝いなど)
17:30〜18:30 夕食の準備や、食事の手伝い
18:30〜 入所者と一緒に遊んだり、おしゃべりしたり、寝巻きへの着替えなど寝る準備の手伝いや、口腔ケアをする
入所者の就寝後 巡回や、トイレ誘導、おむつの交換など

―――仕事をしている中で、つらいことや大変なことはありますか。


入所者と談話する涌井さん(涌井さん提供)

 初めは、介護職員の仕事は簡単なものだと思っていましたが、実際は大変なことも多いです。前に働いていた施設では、他の職員も入所者も聞こえる人たちばかりだったので、やはりコミュニケーションの面でつらかったのですが、今の施設でもコミュニケーションの壁はあります。

 入所者は年配の方ばかりなので、年配の人が使う手話と、私のように若い人が使う手話が違い、お互いの言いたいことがうまく伝わらない時があります。そんな時は、何度も何度も繰り返し、話をしたり、聞いたりします。そうして、やっと伝わった時はとても嬉しいですね。同じ聞こえない人でも、手話だけで全てが通じるとは限りません。筆談や身振りも使います。

 入所者と年代が違うことで、話についていけないことも・・・。例えば、戦争の話。自分も戦争についてしっかり勉強していなければ話ができないですね。

―――一番嬉しかったことは何でしょうか。

 先日、8月5日に地元で「淡路島祭り」があったのですが、「淡路ふくろうの郷」も職員・入所者・ボランティアのみんなで参加してきました。今まで参加したことがない入所者が楽しそうに踊っていて、「来年も参加したい」と言われたことが嬉しかったです。体調が悪くて行けなかった入所者や、職員の人数不足のために連れて行けなかった入所者もいるので、来年はぜひ全員連れていきたいです。

2006年09月30日  読売新聞)
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